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5.一汁三菜の食卓が日本の食文化を復活させる

 いつから言われ始めたのかは定かでありませんが、日本人の食スタイルを代表する言葉に「一汁三菜の食卓」」があります。一汁三菜の食卓が21世紀に入り大きく減少しています。
 夕食における一汁三菜献立の食卓割合が、内食回帰が始まった2004年(32.4%:食卓ベース)から、2011年(27.6%)にかけて減少しています(食MAP調べ)。
 伝統的な食事を大切にする価値観を持った主婦(伝統重視派と言います)の夕食で、一汁三菜の食卓が激減しているという、意外な結果がでました。伝統重視派の夕食の一汁三菜の割合は2004年49.9%でした。夕食の2分の1が一汁三菜献立で作られていたわけです。それが2011年に25.5%と、4分の1にまで減少しました。

 『伝統的食生活を大事にする家庭の食スタイルが、古い世代で崩れていきている』

 逆に、若い世代(35歳未満夫婦のみ世帯)で、一汁三菜の食卓が増加しています(22.8%⇒34.9%)。
 これまた意外な結果です。

 『一汁三菜食卓の主役の新旧交代が起きている』

 新旧の主役が違う一汁三菜食卓のメニューの内容や作り方は、当然に大きく変化しています。新しい一汁三菜の食卓スタイルが誕生しています。
 私は次の仮説をもっています。

 『若い世代の一汁三菜の食卓の立て直しが、日本の食卓文化の再構築の鍵になる』

 もはやグルメの時代は終わりました。

 話は少し道をそれますが、伝統が時代の変化の中で生き続けるためには、時代の変化に適応することが大事です。
 「頑なに変わらない伝統は滅びます」。
 「まったく変わってしまっては伝統と呼べません」。

 ユネスコの世界遺産登録は、ピラミッドという遺物を博物館のような環境で保護したり、メキシコやギリシャの滅び行く民族料理を保護することが目的です。現在流行しているグルメのフランス料理や高級和食が、ユネスコ世界遺産に登録されるのは異例なことです。
 高級和食が良いかどうかは判りませんが、次の言葉が大切です。

 『変わらない部分と変わる部分を両立させることが伝統が生き残るエネルギーです』。
 『伝統に革新が求められています』
 『現代に伝統を復活させることは最大の革新です』

 「伝統と革新への挑戦」を国民的レベルで実践しているのがイタリアの「スローフード運動」です。スローフード運動は、イタリアの生物多様性をベースに「正しい伝統料理を伝承する」「小さな生産者を大切にする」「食品の品質を科学する」を市民レベルで実践しています。
 面白いことにスローフードの運動家の言葉から、健康のため栄養バランスが大事とか、カロリーゼロという言葉は、ほとんどでてきません。こうした言葉を論外(当然だから)にするところが、正に伝統の復活なのです。健康、カロリーゼロ、アンチエイジングが国民の話題になっている日本とは、大分、国民意識が違います。
 イタリアのスローフード運動の背景には、もともと都市国家だった市民の自立した生活意識と、それを支える小さな生産者を大切にしようという市民精神があります。日本人に欠けている点です。
 日本の食品メーカーが伝統と革新に挑戦するためには、市民レベルでの食文化運動(一汁三菜の食卓)と、それに連携した生産者を保護する活動が重要だと考えています。

 『正しい伝統を守る小さな生産者」から学ぶことを通じて。日本の食文化を立て直す姿勢が日本人に必要です』

 「伝統の革新への挑戦」を別な次元で、ドラマチックに実験しているもう一つの国がアメリカではないでしょうか。
 アメリカのバイタリティは四大文明からやって来た移民をフュージョンし、アメリカナイズすることから生まれています。アメリカは1965年に2億人でした。それが2006年に3億人に増加しています。40年間で1億人の増加です。そのほとんどが古代4代文明から移住してきた市民やその子孫です。彼らの食文化が、アメリカの古い食文化とフュージョン(融合)し、新しい食文化が生まれています。ここにアメリカのたくましさがあります。
 そのアメリカで、リーマンショック後内食回帰が始まり、「ルーチン・ミール(日課としての食事)」という言葉が流行しました。
 アメリカの家庭も、生活が多忙化する中で、食生活が部分化しています。食事に時間をかけることができなくなったのです。だからこそ、わずかな時間でも大切にし、家族の食卓を大事にしようという気持ちがアメリカ市民に働いています。開拓市民の時代からの「家族の食卓」というアメリカ食文化の骨格は変わらないのです。その結果、日課としての普段使いの食(ルーチン・ミール)への関心が高まっているのです。

 『食が生活の一部に組み込まれることで、かえって日常的な食の重要性が増す』

 やたら時間をかけて、グルメ料理を楽しむ世界とは別次元の豊かさを彼らは求めているのです。
 ルーチン・ミールの主役は中間所得層の移民と、そのスタイルに共鳴する白人インテリ層です。新しい市民が誕生しています。 ルーチン・ミールのコンセプトは、コンビニエンス(便利)、ヘルシー、デリシャス、ジョイフル、エコノミーです。アメリカのルーチン・ミールはかつての伝統的な食スタイル(お袋の味:コンフォート・フードと呼ばれています)ではありません。さまざまな人種の移民層とアメリカ人の暮らしが溶け合い、フュージョンした結果の新しい市民の食スタイルです。イージー・クッキング(手軽で楽しい料理)という言葉も最近耳にします。

 イタリアのスローフード運動、アメリカのリーチン・ミールに当たるのが、日本の一汁三菜というのが私の考えです。ユネスコの世界遺産に登録された和食とはかなり趣きが異なります。
 一汁三菜の食卓を通じて、日本の多様な文化を復活させ、小さな生産者を大切にする運動が起こせないかと考えています。そうしなければ、日本食文化の、世界の関心はファッションだけで終わるかもしれません。少なくとも50年持つとは考えられません。日本の食文化の復活は、50年の単位で考えなければならないと思います。ターゲットもちろん若い世代です。




一般社団法人Nippon Diner理事長 齋藤隆